
1.はじめに
自動車部品や精密機械部品の加工工程では、クーラントが加工部分の冷却・潤滑を担い、加工精度と設備安定性を支える不可欠な要素となっています。ところが、稼働を続けるうちに金属屑や摩耗粉、油分などが混入し、クーラントの汚染が進行することによって、加工品質はもちろん、設備稼働の安定性にも影響を及ぼします。
この課題に対して、現場ではチップコンベアやサイクロンフィルタなどの除去技術が用いられますが、多くの場合、数µmレベルの粒子を効率的に除去することはできません。取り切れない微細な汚染粒子はクーラント中に懸濁したまま循環し、結果としてノズル詰まりによる流量低下、刃具の焼付き、加工面の微小傷といった不具合が発生し、ラインの停止や不良率増加の原因となります。


2. クーラント汚染が引き起こす現場課題
保全・生産技術担当者にとって、クーラント由来の問題は「突発的な設備トラブル」として現れます。加工条件や工具寿命を管理していても、根本にあるクーラントの清浄度までは制御されておらず、対症療法としてのノズル洗浄や液交換は一時的な改善に留まり、再汚染の繰り返しによって現場のメンテナンス負荷やコスト増大を招いています。
一方、品質保証部門にとってもクーラント清浄度は無視できない要素です。汚染粒子が増えることで、加工面の面粗さや寸法精度の不安定化を招き、また寸法ばらつきや工具摩耗の変動は、検査データの安定性を損なう要因となります。
すなわち、クーラント管理は「生産部門」と「品質部門」にまたがる重要なテーマであると言えるのです。
3. 濾過技術の必要性
機械加工のなかでも特に研削・研磨加工では、数µmの粒子が加工面に影響し、清浄度のわずかな変化が品質ばらつきの原因となります。このような課題を根本的に解決するためには、クーラント中の微細粒子を高効率かつ安定して除去できる濾過システムが有効です。さらに高精度と長寿命を兼ね備えた濾過技術は、クーラント交換やエレメント交換の頻度を減らし、環境負荷とコストの低減に寄与することができます。
4. 加工品質・稼働・環境への波及効果
濾過システムによってクーラントの清浄度が安定すると、加工部分での冷却・潤滑性能が一定に保たれ、刃具摩耗や焼付きの発生が減少します。これにより工具寿命の延長、ノズル詰まりなどによる保全作業の低減など、設備稼働率の向上に期待できます。
加工品質の面でも異物再付着や加工面傷が減少することで、面粗さ・寸法精度の安定化をもたらします。仕上げ面の微細な差異が最終製品の組立性やシール性に影響する高精度部品においては、その効果が特に顕著です。
さらにフィルタ寿命の延長とクーラント交換頻度の削減は、産業廃棄物の低減につながることから、SDGsの観点からも有効な改善策となります。つまり、優れた濾過システムの採用は、生産効率と環境負荷低減を両立させる技術的手段と言えます。


5. データに基づくクーラント管理へ
近年では清浄度を定量的に把握し、状態に応じて保全を行う「状態基準保全(CBM)」への移行が進んでいます。濾過システムに液中粒子カウンタや差圧モニタを組み合わせることで、リアルタイムにクーラントの健全性を監視し、交換やメンテナンスをデータに基づいて判断することができます。
この仕組みを確立すれば、保全・生産技術部門と品質保証部門が同じ指標で工程を共有できるようになり、トラブルの予兆検知や原因追跡も容易になります。結果として、工程全体の信頼性が向上し、製造現場の見える化を一層進めることが可能となります。
6. まとめ
クーラントは単なる冷却・潤滑媒体ではなく、「加工品質と安定稼働を左右する制御対象」です。従来の除去技術では取り切れない微細粒子を安定して管理することが、今後の高精度加工における必須条件となります。
高精度濾過・長寿命を両立する濾過技術は、その実現を支える中核であり、特に研削・研磨工程では加工品質の安定化に大きく寄与します。さらに、データ監視との組み合わせによって、保全効率・品質保証・環境対応を同時に満たす次世代のクーラント管理体系を構築することができるのです。
■本技術資料の著者■ RMFジャパン株式会社 和中 尭久 機械状態監視診断技術者■取得経験を有し、潤滑管理におけるオイル清浄度改善提案を多数実施。 多くの企業の設備信頼性向上と保全最適化に貢献している。
■本技術資料の監修■ RMFジャパン株式会社 久藤 樹 元出光興産株式会社出身。技術士(総合管理部門、機械部門)資格を所有し、潤滑管理のセミナー講師として多数登壇。 著書に「基礎から学ぶ潤滑管理」(潤滑通信社)があり、潤滑管理技術の普及と現場改善に注力している。
